大アンデスの麓カウカ渓谷に広がる緑の波の中、3年に1度の国際甘蔗糖技術者学会に2,000名近くのシュガーケーマン(キビ仲間)が集まった。
CIAT(国際熱帯農業センター)を包んで広がるさとうきび平原のあちこちから、非収穫部分(トラッシュ)を焼く煙が立ち昇っている。9月上旬、日本では生長の盛りであるが、周年収穫の大産地である当地では収穫の盛りである。
環境との調和はここでも重要な鍵である。圃場でのトラッシュ焼却が近々廃止されるため、トラッシュ収穫用機械(グリーンタイプ)が導入され、資源保全につながる製糖残渣の高度利用については製紙や製蜜工業が既に成立している。
分科会でもこの状況を反映し、持続的生産の観点から育種、病害虫、栽培、機械、加工利用など計104課題が発表された。糖・副産物回収の高度化、持続的生産へのトラッシュ処理や緑肥の利用、非焼却収穫でのトラッシュ混入回避と原料損失の低減、そのための易脱葉性品種の育成、病害虫の総合防除法確立などが議論の中心であった。分子生物学の手法が育種、病害虫の分野に広がり、仏、米、豪、南ア等が推進役となって研究のネットワークを育てている。
南西諸島・種子島での研究、小さな陣容だからこそ、国際ネットワークの中で活躍することが重要だと痛感した数日であった。
(九州農業試験場 作物開発部さとうきび育種研究室 杉本 明)
植物に病原体が侵入すると、侵入を受けた部位の細胞は病原体もろとも「自爆死」するのだそうです。自爆死の結果が病斑として現れますが、これによって病原体の全身的蔓延を阻止できます。これは言わば植物細胞が病原体を取り込んで「無理心中」を図ることでもあります。植物が損傷を受けたときも同様で、細胞が切断され破損したままだと植物体の機密性が保たれず根部から養水分を吸収できません。そこで損傷部位をリグニン化するなどの自己防御が行われます。これらは植物体内における、被害の最前線での懸命な自己犠牲的防御作用といえましょう。
これに呼応する形で、後方から支援する防御機能も働き出します。損傷の場合には、損傷抵抗性(リグニン化面積を最小限に止めるなど)を増強するためのジャスモン酸が植物体内に生成されますが、これを誘導する遺伝子は傷を受けて僅か1分以内に検出されるのだそうです。例えばタバコの葉を切断したとすれば、この遺伝子は殆ど時間をおかずして働きだし、そして3時間以内にはジャスモン酸が植物全体に生成されて、後方支援体制も整うのだそうです。病原体の侵入の場合にはジャスモン酸と共にサリチル酸が生成され、病害抵抗力が増強されます。このように植物体内における自己防御作用は極めて短時間のうちに整い、前線と後方支援との間に明確な分担があるというのです。
以上は、6月5日に行われた農業生物資源研究所の記者発表「植物の傷シグナル伝達に関与するMAPキナーゼ」の導入部分で解説された内容です。タバコや稲というものいわぬ植物体内でここまできめ細かい生体反応が日常的に行われていることを知り、植物は「生物」ではあるが、「静物」ではないことを正しく理解しました。農業生産が工業生産と異なるところは、立地・土壌条件を異なえて、天候を相手としていることと同時に、見事な生体バランスを保つ植物を生産のパートナーにしているということでしょう。植物は植生した所から移動できません。それ故に長年の分化と発展の中で獲得してきた特性には想像を超えた摩訶不思議な機能があるようです。毎朝「美しい花を咲かせて!!」と声かけながら、植木に水をやるのも試してみる価値はあると思いました。
(執行 盛之)